コーチ・オクヤマの「直言居士で失礼します」 第15斬

ほぼ月イチコラム ディベートコーチ・オクヤマの「直言居士で失礼します」 第15斬


ディベートで読み解くクジラ裁判」


皆様、こんにちは。

少し前の3月末のニュースになりますが、
南極海での日本の調査捕鯨の合法性が争われた裁判で、
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は、
日本に対して、現在の形での調査捕鯨活動の中止を言い渡しました。

オーストラリアが「日本の捕鯨は科学を装った商業捕鯨だ」と訴えた裁判ですが、
事実上の完敗であり、敗訴です。日本政府としては、商業捕鯨再開にむけた
政策の見直しを急ぐ見込みです。

今回は調査捕鯨敗訴を題材に、ディベート的にニュースを斬ってみます。

解体新書「捕鯨論争」

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ディベートの分析アプローチ方法として、
五大争点ファイブ・ストック・イシュー)というものがあります。

下記に列挙した5つの争点に答える形で、
問題分析&プラン分析を論理的かつ効率的に深めていく手法です。

  <争点1> 問題は深刻か?
  <争点2> 問題の内因(根本原因)は?
  <争点3> 問題を解決するプランはあるか?
  <争点4> プランは実行可能か?
  <争点5> プラン実行によるメリット・デメリットは?

上記の質問に沿って、今回のクジラ裁判をみていきましょう。

まず争点1(問題の深刻性)については、
現状直面している問題がどの程度深刻かを見極める必要があります。

深刻な問題がない場合には、特に対策を打つ必要性がないからです。
言い換えれば、問題の大きさを規定する最重要なステップとも言えます。

 現状の問題)南極海における調査捕鯨を中止するよう司法判断が下ったこと
 問題の深刻性)深刻ではない。そもそもクジラ肉は供給過多の状態だから
 証拠資料毎日新聞 2014年03月31日
  ・「鯨肉の国内流通量はピーク時の約2%まで減少」
  ・「南極捕鯨で捕獲した鯨肉は国内流通量の2割」
      ・「商業捕鯨を行っているアイスランドノルウェーからの輸入も可能」

どうも、消費者という観点では、鯨肉の供給面での影響は限定的のようです。
また、食文化という観点でも、商業捕鯨国からの輸入も可能かので問題なさそうです。
 
つまり、今回の問題自体があまり深刻な問題ではないということが分かります。


続けて、争点2(問題の内因性)についてみていきます。

内因とは難しい言葉ですが、ある問題の根っこにあたる原因のことです。
言い換えると、その原因を取り除かないことには問題が解消しない要因を指します。

内因を明らかにすることは、有効な施策を検討する意味でとても重要なステップです。

さて、今回のクジラ裁判の原告はオーストラリア政府です。
在日オーストラリア大使館のホームページによると、
「日本の捕鯨活動は国際的な義務に反するもので中止されるべき」
というのが、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した表向きの理由となっています。

よくわかるクジラ論争―捕鯨の未来をひらく (ベルソーブックス)

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しかしながら、NHKシドニー支局長の中島氏によると、
オーストラリア政府が国際司法裁判所(ICJ)に提訴した本当の理由を以下のように述べています。
「日本の調査捕鯨への対応強化を公約に掲げたケビン・ラッド前首相の支持率低下にあった」

上記背景を踏まえると、反捕鯨を広く共有するオーストラリア国民の価値観こそが、
今回のクジラ裁判の根っこの部分だということが分かります。

つまり、日本政府が対策が打てない部分に問題の内因(根本原因)があると言えます。


続いて、争点3(問題の解決性)についてみていきます。

ビジネスにおいては、問題解決の具体的なプランを出さないで他者の批判をしていると、
「あの人は批評家だ」と陰で揶揄されることがあります。

自分なりの解決策を考えておくことは、当事者として信頼を得る為に重要なことです。

今回の問題の解決策を考えるにあたり、国際司法裁判所の法的根拠を確認する必要があります。
国連憲章第94条では以下のように規定されています。

「各国際連合加盟国は、自国が当事者であるいかなる事件においても、
 国際司法裁判所の裁判に従うことを約束する」

当条項が規定するところでは、国際司法裁判所(ICJ)によって下された判決は、
関係各国を拘束するということです。

上訴は認められず、日本としては「南極海での調査捕鯨は中止」せざるをえない状況にあります。
さらに言えば、「商業捕鯨を継続する為の調査」という前提で調査捕鯨を続けてきた日本には、
アイスランドノルウェーのように、商業捕鯨に切り替える術もありません。

つまり、日本には有効な問題解決策(プラン)がないということになります。

日本の鯨食文化――世界に誇るべき“究極の創意工夫”(祥伝社新書233)

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争点4(プラン実行可能性)と争点5(メリットデメリット)については、
有効な問題解決プランがない以上、議論する余地はありません。

以上についてまとめると、クジラ裁判に負けた時点で、
日本政府には打つ手がなくなったことが分かります。

 争点1(問題の深刻性)
⇒供給量は十分確保されており、鯨食文化が途絶える心配もなく、深刻な問題はない

 争点2(問題の内因性
⇒オーストラリア国民の価値観に根ざす問題なので打つ手なし

 争点3(問題の解決性)
国際司法裁判所の法的拘束力には逆らえず、有効な解決プランなし


長くなりますので、詳細については割愛しますが、
今回のクジラ裁判は、日本政府の論理矛盾をつく形で決着しました。

日本の政治家のみならず官僚においても、
徹底した論理レーニングが不可欠であると証明したニュースですね。

捕るか護るか?クジラの問題 -いまなお続く捕鯨の現場へ- (tanQブックス)

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なお、”五大争点ファイブ・ストック・イシュー)”の詳細については、
バーニングマインド・理事を務める太田龍樹の著書
ディベートの基本が面白いほど身につく本(中経出版)』
で詳しく説明されているので、参考にして下さい。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました!!

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