コーチ・オクヤマの「直言居士で失礼します」 第23斬

ディベートコーチ・オクヤマの「直言居士で失礼いたします」
第23斬 「成熟した民主主義とは 〜スコットランド住民投票から〜」


皆様、こんにちは。

本日は、スコッチウイスキーで有名なスコットランドをめぐるトピックから。

2014年9月18日、英国にとっては、
2年にわたる懸案事項であったスコットランド独立問題が決着しました。

スコットランド分離・独立』に関する住民投票投票率は過去最高の84.59%を記録。
一生に一度しかない決断を大多数の住民が下したことになります。

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英国サンデー・タイムズ紙やデイリー・レコード紙などが、
9月はじめに行った世論調査では、独立賛成派が独立反対派を約5ポイント上回っていましたが、
ふたを開けてみれば、10ポイント以上引き離す大差で独立反対派が押し切り、
英国は土壇場でスコットランド独立を回避することに成功しました。

通貨、国防、資源、EU(欧州連合)加盟から国旗のデザインまで、
大混乱が必至といわれた様々な懸案事項に対して、
スコットランド住民の多くがNOをつきつけたということです。

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今回の住民投票の結果をキャストライトアップを使って分析してみると、
以下の通りとなります。

 スコットランド ⇒経済力低下の回避、『英国からの権限移譲』という譲歩の獲得
 英国      ⇒経済的な信認の回復、北海油田の権益継続
 EU(欧州連合)  ⇒地政学的リスクの回避、分離独立の流れへの歯止め

国というレベルでは損をしたキャストがいないようですので、
より穏当な結果になったと言えるでしょう。

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さて、コラムの主題である民主主義にスポットをあてていきましょう。
今回のスコットランド住民投票において、注目すべき点が3つあります。

 1)国家の成熟
 2)人的基盤の拡大
 3)情報開示


順に見ていきましょう。

まず1点目としては、「国家の成熟」という点です。
今回の件で、英国は懐の深さと歴史から学ぶ姿勢を世界に見せつけました。

独立を阻止したデビッド・キャメロン英国首相は、9月19日早朝に会見し、
「議論は終わった。今後はイギリス全体のために、よりよい未来を作っていこう」
と語っています。

アイルランド独立戦争の歴史と教訓を踏まえて、
武力ではなく言論での解決を目指したことは特筆に値します。

物語アイルランドの歴史―欧州連合に賭ける“妖精の国” (中公新書)

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軍隊を侵攻することがもはや趣味と化しているユーラシア大陸の軍事大国や、
軍事力をもって周辺国を恫喝し続けるGDP世界二位の大国には、
とくに見習ってもらいたい点です。

スコットランド独立を住民投票の結果に委ねると同時に、
交渉過程では、スコットランドに「徴税権など広範な権限移譲」を約束し、
独立回避後にも、一緒に未来を歩んでいこうとする一貫性ある立場は、
まさに「国家としての成熟度」を示す証左と言えます。


続いて、2点目としては、「人的基盤の拡大」という点です。

今回の住民投票では、投票年齢が、
英国に先駆けて「18歳以上」から「16歳以上」に引き下げられました。
有権者登録者約430万人のうち、18歳未満は約11万人。
投票する権利を持つ16〜17歳の9割が投票の意思を示したと言われています。

そもそも英国といえば、ディベート教育の先進国。
青年であっても、十分な情報が与えられれば、
適切な判断をくだすことができる素地があるということでしょう。

実際、2013年9月18日付けの朝日新聞DIGITALでは、
17歳になるスコットランド人青年の声が紹介されています。
「多くの人が待ち望んだ独立を決める千載一遇の機会に10代の僕たちが参加できるのはすごいこと。
 必死に考え、責任を持って投票したい」

日本でも、投票権を18歳に引き下げる議論があるようですが、
青年だから判断能力が低いと断じ、投票機会を奪うのは正しいことなのでしょうか?
むしろ、投票行動によって、自らの将来・未来への判断を下させることの方が、
民主主義の成熟という観点では重要ではないかと考えさせられました。

とても参考になる事例といえます。


最後に、3点目として「情報開示」という点です。

今回の住民投票では、
スコットランド自治政府から650ページにわたる独立白書が開示されています。

自らの将来を決める重大投票なので、住民は隅から隅まで内容を精査したことでしょう。
正確な情報開示がなければ、国民は正しい判断を下すことはできません。

日本企業でも情報を隠したがる役員や上司は多いと思いますが、
組織が有機的に動く前提として、情報開示が欠かせないのは言うまでもありません。

多くのスコットランド人が、独立白書を通じて、
独立賛成派の「世界有数の豊かな国になれる」という主張の裏付けが薄いことや、
通貨をイギリスポンドに頼る点で金融政策の自律性がない点など、
を喝破したということでしょう。

最後にまとめます。

日本の民主主義の成熟という観点では、
尖閣諸島竹島など領有権の問題などさまざまな外交・内政問題に対して、
日本政府は、議論をもって解決する姿勢を貫くことが最重要です。

一方、民主主義を支える日本国民自身も、選挙など投票行動を全うすることで、
主体者としての自覚と責任を持たなくてはなりません。
言い換えると、ちゃんと責任ある判断ができる人間にならなくてはならないということです。

バランスの取れた判断を行う思考ツールとして、ディベートは非常に有用です。
ビジネスパーソンとしての共通言語・共通基盤という側面もあります。

ご興味ある方は是非、
使えるディベートセミナー」で一緒に学んでいきましょう!


最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました!!

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