アビコ青年のディベート事件簿 File3

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前回は「人は理屈だけでは動かない」ことをご紹介しました。
コミュニケーションで大切なのは、「論理」に加えて「人間心理」への理解です。

本日はこの「人間心理」にスポットを当てます。
テーマは「コミュニケーションを構成する3要素って何?」です。

先日、面白い記事を見つけました。
「宇宙飛行士界にみる、30代から伸びる人」という特集記事です。

日本の宇宙飛行士選抜試験は、世界で最も難しい試験なのだそうです。
なぜなら、日本の宇宙事業は予算と人員が限られているので、確実に本番一発勝負で仕事を成功させる、タフで勝負強い人を厳選する必要があるからだそうです。

企業の就職面接と同じように、宇宙飛行士試験でも面接は何度も実施されます。その期間、なんと一年間!
そんな中で目に留まったのは、この試験の基準を作ったJAXA山口孝夫さんが語る「面接で響く言葉、響かない言葉」という一節。

「いくら良いことを言っても、その言葉が自分の経験で裏付けられていることや、常に自分が考えていることでなければ、聞いている側の心に訴えないんです。きっと感情が乗ってこないからでしょうね。」

この「感情が乗ってこないから」という部分、コミュニケーションの本質を突いています。
つまり、話の理屈は通っていても、必ずしも説得力を持つとは限らないということです。
これは一体、なぜでしょうか?

ここで鍵となるのが「コミュニケーションの3要素」です。
古代ギリシアの哲学者・アリストテレスは、その要素を次のように説いています。

ロゴス:相手に分かりやすく伝える「論理的な」要素
パトス:相手に「情熱を込めて伝える」要素
エートス:相手に「信頼感・安心感を与える」要素

前回、「ネオ・ディベート」は「論理」+「人間心理」を意識したディベートであるとご紹介しました。
この「人間心理」の部分が「パトス」と「エートス」です。

エートス」はその人が持つオーラそのものですから、ここを鍛えるのは最もハードルが高い。一方、「ロゴス」と「パトス」は、比較的取り組みやすい要素です。
何はともあれ、まずは「分かりやすく(ロゴス)、しかも情熱を込めて(パトス)話す」ことを心掛けるのです。

先ほどの宇宙飛行士の面接の例でも、この3要素の重要性が分かります。宇宙飛行士の試験を受けるような方は、論理的思考力(ロゴス)はずば抜けています。「面接官が求める模範解答」を見抜けてしまうそうです。

それでも、模範解答だけではいずれ落とされるそうです。やはり言葉に感情パトス)が込められていないと、どうしても聴き手の心は動かせないということです。
この事実、実社会では意外なほど見落とされているように思います。

コミュニケーションは、3つの要素が密接に関わり合っています。
相手に分かりやすく伝える力は大切ですし(ロゴス)、気持ちを込めて伝える力も大切です(パトス)。どちらか一方ではなく、両者とも欠かせない大切な要素です。
もしもこのバランスを失うと、ロゴス偏重なら「理屈っぽい人」、パトス偏重なら「感情的な人」と思われてしまいます…。
さらには「エートス」の要素、例えば「あの人の言っていることだから信じられる」と聴き手に心から信頼されている人は、円滑なコミュニケーションの達人です。尊敬できる人の言葉には、素直に耳を傾けられますからね。

宇宙飛行士試験が教えてくれるもの。
それは「ロゴス」と「パトス」の大切さ、さらには宇宙空間という極限状態でも「きっとこの人なら任せられる!」と信頼される人、そう「エートス」の大切さです。

コミュニケーションの三要素。
人は理屈だけでは動かない事実。
このごく当たり前の現実を直視したネオ・ディベート
人生の大きな味方になってくれるのは、言うまでもありません。

File4につづく


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